汝、星のごとく(凪良ゆう) レビュー

恋愛・青春

1. 序章:「星のように生きる」とは何か?

『汝、星のごとく』というタイトルには、静かに輝く星のように、「他人と比較せず、ただそこに在ることの尊さ」が込められているように感じられる。作中で描かれる登場人物たちは、家庭や社会、地域という閉ざされた環境のなかで、繰り返し「選ぶ自由」と「生きる痛み」に直面する。その中で、星のようにただ静かに輝き、他者の人生を照らす存在であろうとする意志が、本作の根底に流れている。

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2. 物語構造と章立ての意図

本作は、過去と現在を交差させながら語られる構造をとっている。物語の中心には青埜櫂と佐々木暁海の再会が据えられ、それに向かって二人の過去が丁寧に紡がれていく。章ごとに人物視点が変わることで、読者は双方の葛藤や不器用な愛に触れることができる。この構造は、「誤解」と「理解」の溝を読者自身が埋めていく体験でもある。

3. 登場人物を解剖する

■ 青埜 櫂

父の影と地元のしがらみに苦しみながらも、櫂は“守る”ことを選び続ける人物だ。彼の不器用な優しさと、他人との距離の取り方には、愛されなかった子どもとしての叫びがにじむ。彼の生き方は「犠牲」ではなく、「それでもそこにいること」の尊さに裏打ちされている。

■ 佐々木 暁海

家庭に押し潰されそうになりながらも、暁海は自分の感情を見失わずにいた。母親への嫌悪と愛情が交錯する中で、彼女は「自分の幸せを選び取る力」を獲得していく。逃げることでしか得られなかった自由と、戻ることで見えた真実が、彼女の成長を際立たせる。

■ 周囲の人物たち

教師、親、友人たちは、二人にとって「社会」そのものである。時に加害者であり、時に救いとなる彼らの存在は、個人と社会の関係性を象徴している。

4. 舞台(島・地元)が語るもの

舞台となる小さな島や地方都市は、作中で「閉鎖された共同体」の象徴として機能している。そこでは“普通”であることが最も重視され、逸脱する者には排除の目が向けられる。二人が地元を出て、そして再び戻るという選択は、「帰属」と「離脱」の間で揺れる人間の根源的な葛藤を映し出す。

5. 作品を貫く主題

「自由」と「責任」

櫂と暁海は、ただ愛し合うだけでは生きていけない現実と向き合う。その中で二人が選ぶのは、“自分の意志で生きること”だ。自由とは、ただ束縛から逃れることではなく、選んだ結果に責任を持つことでもある。

「家族」という呪縛

血縁というだけで「愛さなければならない」とされる家族。だが本作は、その価値観に疑問を投げかける。家族の中にこそ暴力や抑圧が潜むことがある、という現実を、凪良ゆうは静かに、しかし確かに描いている。

6. ラストシーンの読解

再会の場面は、感情の爆発ではなく、静かな理解と決意のシーンとして描かれる。かつて星を見た夜のように、言葉ではなく「在る」ことで通じ合う二人。ここで重要なのは、“二人が選んでそこにいる”ということだ。それは、星のように、自分の軌道を持ちつつ他者を照らす存在としての成熟を象徴している。

7. 他作品との比較考察

『流浪の月』では、被害者と加害者という社会の視線にさらされる関係性が描かれた。一方で本作では、社会の目にさらされない“静かな苦しみ”が焦点になる。どちらの作品にも通底するのは、「他人に理解されなくても、生きる価値はある」という強いメッセージだ。

8. 読者への問い

あなたにとって、愛するとはどういうことだろう? 誰かと生きるとは、どういう選択だろう? 本作は、明確な答えを提示しない。だからこそ、読み終えたあとに残るのは、静かな余韻と、自分自身への問いかけである。

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